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DATE : 2024/04/17 (Wed)
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DATE : 2006/09/14 (Thu)

電話の音がする。

僕は目を覚ました。
今まで寝ていたのである。
起きている状態においても『目の覚めるような』という表現を使うことがあるので、特に記しておく。

まだ電話の音がする。

僕の夢の中における電話の音ではないことが確認できた。
夢といっても、追い求める夢ではなく、睡眠状態で見る夢の方だ。
追い求める夢、といっても、トラックを走り回って夢を追いかけるわけではない。

僕は電話を取った。
いや、取ったのは受話器である。
つまり、携帯電話ではなく、固定電話に掛かってきたのである。
だからといって、僕が携帯電話を持っているかどうかは、あなたにはわからないであろう。
僕も悪魔ではない。
お教えしよう。
僕は携帯電話を持っている。
もちろん、ちゃんと契約した状態のものだ。

「はい、もしもし。クドです。僕が名乗ることによってあなたを100%信用させることは不可能ですが、僕の声を知っている方であるならば、僕がクドであることへの信頼度は増すことでしょう」

「お母さんよ。もちろん、お母さんがあなたのお母さんであるという確実な証明にはならないけれど、お母さんの声を知っているあなたにとっては、今話している私がお母さんであることへの信頼度は増すわね。今起きたところかしら?『起きた』といっても、体を『起こした』の意味ではなく、睡眠状態から覚めた、という意味の『起きた』よ」

「わかっているよ、母さん。たった今、睡眠状態から覚めたところだよ。ちなみに、電話のコール三回分前に起きたところだった。もちろん、今話しているこの電話のコールのことで、無関係な電話のコールのことではないよ」

「あらそうなの。ところで、電話のコール一回の長さはどのくらいかしら?それによってあなたの起きた時間が変わるから。変わるといっても、それは一秒に満たないかもしれないわ。でも、一秒の差が大きな差になる可能性もあるわよね」

「たしかにそうだね、母さん。後で確認しておくよ。もちろん、適当に数えるんじゃあなくて、ストップウォッチを使ってね。そうしなければ、正しい情報が得られないばかりか、大きな差が生じてしまう可能性が高いからね。もちろん、適当に数えた場合にも偶然的に正しい情報が得られることもあるけれどね」

「それが良いとお母さんも思うわ。でも、ストップウォッチが狂っているという可能性を否定することはできないわ。これが、機械を使ったとしても正しい情報が得られない、という例になるわね」

「そうだね、それは重要な問題だ・・・そうだ!時報を聞きながら、ストップウォッチが正確かどうかを試してみよう。もちろん、時報が100%正しいかどうかは定かではなく、僕がストップウォッチを動作させるタイミングを100%合わすことは無理だということを考慮しなくてはいけないけどね・・・」

「そうね。ある程度の妥協は必要ね。もちろん、妥協ばかりしているわけにもいかないけれど・・・あら、コンロの火がかけっ放しだったわ。また電話するわね」

「うん、じゃあね。火をちゃんと消すんだよ。もちろん、消火器を使う必要はないけれどね。火事になりそうな場合を除いては」

母さんからの電話だった。
もちろん、電話先の彼女が100%母さんである、と断言することはできない。
だが、声や性格などから察するに、彼女が母さんである確率は高い。

それにしても、母さんは流石である。
色々な物事によく気がつく。
僕なんてまだまだ未熟者だ。

おっと、また電話の音がする。

僕は電話を取った。
今度は受話器を取らなかった。
つまり、固定電話ではなく、携帯電話に掛かってきたのである。
あなたにも、僕が携帯電話を持っているということが、これで確信できたと思う。
さて、携帯電話の方に掛かってきたという事実から、電話を掛けてきたのは母さんではないように思われる。
もちろん、単なる母さんの気まぐれ、という可能性も否定はできない。
前提が、先程固定電話に掛かってきた、という事実だけであるので、母さん否定説は若干弱い。

「はい、もしもし。クドです。僕が自分の名前を名乗ることによってあなたを100%信用させることは当然のことながら不可能です。ですが、もしあなたが僕の声を知っている方であるならば、僕がクドであることへの信頼度は増すと思われます」

「私だ」

「その声は父さんですね?もちろん、声だけであなたが100%私の父さんである、と断定することはできませんが・・・」

「そうだ。私はお前の父さんだ」

「ところで、先程母さんからも電話があったけれど、どうしたんだい?もちろん、父さんと母さんが偶然僕に時間をずらして電話をしてきた、ということもあり得る。だが、父さんと母さんは同じ目的があって僕に電話を掛けてきたと考える方が自然だ。そうだよね、父さん?」

「ああ、半分当たっているな」

「半分当たっている、ということは、半分は外れている、ということですね。つまり、父さんと母さんは同じ目的があって僕に電話を掛けてきたけれども、それは偶然である、ということですか?」

「まあ、そうかもしれないな」

「そうですか・・・ですが、与えられた情報から、僕が父さんと母さんの電話の目的を推測するのは難しい。特に材料がない、という事実から二人が僕の心配をしてくださっている、と考えるのが一般的に思われる。もしそうなら、父さんと母さんにはとても感謝したい。ありがとう」

「心配していないのは嘘ではないが、用件は別にあるんだがね・・・」

「ああ、そうでしたか。どちらにしろ、僕のことを考えてくれている二人には感謝の気持ちでいっぱいだ。海よりも深く感謝したい。もちろん、実際に僕が海の底を掘って、そこから二人に頭を下げる、ということではない。また、することもできない。当然だ。なぜなら、僕はそこまで深く潜ることもできなければ、息を持たせることもできない。たしかに、高圧空気ボンベなどの装置や、一流のダイバーの助けを借りれば可能かもしれない。だが、予算的な問題もあり、実際に行動を起こす際の・・・」

「わかった。私が悪かった」

「えっ?父さんが謝る必然性は全くありませんよ?必然性があるとしたら、僕が父さんに感謝することぐらいです。父さんへの感謝の気持ちが必然性といえるほど、僕は父さんには世話になっています。なぜ、僕に父さんが謝るのですか?」

「そうだな。ちょっと用事ができたから、もう切るよ」

「わかりました。父さんも、お体に気をつけて。もちろん、気をつけるといっても、程度の問題はありますよ。全ての物事に対して、注意を払いすぎたら何もできませんからね。お風呂に入る前に温度を確かめるため、手を入れる。しかし、手を火傷する可能性があるため、温度計を持ってくる。温度計を持ってくるときに、リビングを通らなければならないが、テーブルの角に足をぶつけるかもしれないので、十分に気をつける。この程度なら良いとは思いますけれどね・・・」

「ああ、じゃあな。全く、誰に似てこんなにもくどくなってしまったんだか・・・」

父さんからの電話だった。
父さんは、昔から口数が少なく、何を考えているのかわからないところがある。
もちろん、僕は人が何を考えているのか完璧にはわからない。
人が何を考えているのかわかる、と思うのもおこがましいことなのかもしれない。

だが、僕は父さんを尊敬している。
口数が少ない父さんを見て、父さんが何を考えているのかを色々と想像することができるのだ。

父さんと母さんの電話の目的、それをもう一度考えてみよう。
二人に何かトラブルが起きた場合を想定して、三つの側面から見てみよう。
なぜなら、両親にトラブルが起きた場合を想定するのが、一番最初にすべきことだと息子として思うからである。

まず、『二人』が僕に電話をしてきた、という事実から。
二人ともが、なんらかの同じ状態である可能性が高い。
もしどちらかが無事ならば、僕に電話をすることなくもう一方をサポートするだろう。
そうでないとするならば、事態は深刻といえる。

次に、二人が僕に『電話』をしてきた、という事実から。
二人は、音が頼りだった。
つまり、口と耳は大丈夫だ、ということだ。
手も大丈夫だろう。
母さんがコンロの火を消しに行った、という事実から少なくとも母さんに関しては足も大丈夫だろう。
よって、目を患っている可能性が高い。

最後に、二人が『僕』に電話をしてきた、という事実から。
僕は最近、よく眼科に行く。
父さんと母さんがこの事実を知っているとしたら、二人は眼科に用事があるに違いない。
そして、息子という立場上、身近な僕に相談するのが筋だ。
もちろん、そうではない親子関係も数多いことだろう。
だが、僕と両親は仲が良いのである。
少なくとも、僕は両親と仲が良いと思っている。
両親はどう思っているかは、わからない。
無論、父さんはそう思っていて、母さんはそう思っていないかもしれない。
逆もまた、然り。

二人にトラブルが起きていると想定すると、二人は同時に目を患っていて僕に眼科を紹介してもらいたがっている、という状況が三つの側面から浮かび上がってくる。

もちろん、これは一つの可能性に過ぎない。
他の可能性も検討したい。
だが、僕の両親のことであるので、客観的な判断が下せるかどうか疑問である。
どうしたものか・・・。

困った。
どうすればいいのか。友人に聞いてみるか。
友人がこの場にいるわけではない。
電話をして聞いてみるのだ。

眼科医の友人に。

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